「性格」は変えるな、「役割」を変えろ。PIVOT CEOの組織崩壊を救った"外科手術"的解決策
組織マネジメント / リーダーシップ7分

「性格」は変えるな、「役割」を変えろ。PIVOT CEOの組織崩壊を救った"外科手術"的解決策

「人間力15点」という衝撃のフィードバックから始まったPIVOT佐々木紀彦CEOの社長改造企画。そこで露呈したのは、経営陣の深刻な分裂だった。「成長至上主義」と「多様性重視」の対立を、性格の矯正ではなく「フェーズの定義」と「役割の変更(経営と執行の分離)」によって解決したプロセスを解説する。

はじめに:「人間力15点」からのスタート

「ビジネスの話しかしない」「人間力は15点」。

ビジネス映像メディア「PIVOT」の佐々木紀彦社長に対し、社員から突きつけられた言葉です。

ドキュメンタリー『社長改造』は、当初、社長個人のスキルアップ企画として始まりました。しかし、蓋を開けてみると、そこには「経営陣の分裂」という、組織崩壊寸前の危機が潜んでいました。

今回は、この危機を乗り越えた「感情ではなく構造で解決する」マネジメント手法を紐解きます。

1. なぜ経営陣は分裂したのか?

対立の構図は、スタートアップでよくある「攻め vs 守り」の価値観の相違でした。

成長・戦闘派(佐々木CEO・木下氏)

  • 「今は創業期。野蛮な成長が必要だ」
  • 「会社は仲良しクラブではなく、勝つためのプロスポーツチームだ」

多様性・ケア派(竹下隆一郎氏)

  • 「勝ち負けだけの文化は古い」
  • 「心理的安全性や多様性がなければ、人はついてこない」

この溝は深く、「解散した方がいいのでは」という言葉が出るほど深刻化していました。

2. 解決策①:「いつの話か」を定義する

コーチの徳谷氏は、両者の主張を無理に統合しようとはしませんでした。代わりに行ったのが「時間軸(フェーズ)の合意」です。

策定された行動指針「PIVOT LAWs」は、「2023年版(創業期の今だけのルール)」と定義されました。

「永遠に多様性を無視するわけではない。しかし、今のフェーズだけは戦闘モードで行く」

この期間限定の合意形成が、異なる価値観を持つメンバーを繋ぎ止めました。

3. 解決策②:「役割」を外科手術する

最大のブレイクスルーは、多様性派であった竹下氏の「配置転換」です。

Before(執行役員)

納得していない「戦闘モードの方針」を、部下に説かなければならない苦しい立場。

After(専門執行役員=プレイヤー)

マネジメントから外れ、得意なコンテンツ制作に専念する「特級戦力」としての立場。

「経営陣から外す=左遷」ではありません。

彼のクリエイティビティを殺さないために、「経営(マネジメント)」と「執行(プレイヤー)」を分離し、最も輝く場所へ役割を変更したのです。

結果、竹下氏は「プレイヤーとしてチームに貢献する」と宣言し、その後ヒット企画を連発することになります。

経営陣の役割分担図。マネジメント層とスペシャリスト層を分けた組織図のイメージ

結論:リーダーの仕事は「性格矯正」ではない

組織がうまくいかない時、私たちはつい「相手の性格を変えよう」としたり、「自分の性格を殺そう」としたりします。しかし、人の本質はそう簡単には変わりません。

佐々木社長が行った「改造」の本質は、自分自身の性格を変えることではなく、「個々の個性がぶつからないような『箱(役割)』と『ルール』を作り直すこと」でした。

「あいつとは合わない」と嘆く前に。

それは本当に相性の問題でしょうか?
それとも、配置と役割の問題ではないでしょうか?